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免疫特集

  • インフルエンザ感染と免疫
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  • 免疫力を高める成分
  • 免疫力を高める10のポイント

免疫最新情報「免疫力は生命力」

笑うと副交感神経が優位に働き、白血球を活性化する快楽物質・ドーパミンの分泌が促されます。副交感神経が優位に働くとはどういうことか?私たちの体のなかで白血球はどんな役割を担っているのか?免疫システムを知り尽くした専門家が、NK細胞を活性化させ、免疫力を高める生き方を指南します。いつも「〜ねばならない」と気まじめに生きるアリ型より、クヨクヨすることなく、明るくマイペースを楽しむキリギリス型のほうが、元気で長生きできる—そんな「不良長寿論」を提唱する奥村康先生に、ストレスフルな生活を上手に生き抜くコツをうかがいました。

取材協力・監修
奥村 康 先生

順天堂大学医学部教授

1942年生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。スタンフォード大学リサーチフェロー、東京大学医学部助手を経て、1984年より順天堂大学医学部免疫学講座教授。医学博士。1990年日本免疫学会会長。2000年より順天堂大学医学部長を務める。サプレッサーT細胞の発見者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学賞、ISI引用最高栄誉賞などを受賞。臓器移植後の拒絶反応を抑える新手法を開発するなど、免疫学の第一人者。

免疫がある限り、
1週間生きていれば必ず抗体ができる。
免疫とは、そういう非常にありがたいもの。

インフルエンザが流行っても、かかる人とかからない人がいます。今回の新型インフルエンザ報道で、免疫力や抗原抗体反応といった言葉が耳目を引き、免疫の世界がにわかに脚光を浴びました。そもそも免疫のシステムとはどういうものなのでしょうか?

奥村 免疫とは、自分の体の中に本来ない異物を追い出そうとする能力。例えば、細菌やウィルスなどの病原菌が体の中に入ってきたときに、これを排除する能力のことです。免疫だけでは治らない病気もありますが、たいがいの病気は免疫力があれば治すことも遠ざけることもできます。

北京郊外で流行り、たくさんの死者を出したサーズにしても、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)が乗り込んでいって死因がわかったのですが、それによれば、サーズウィルスが肺に入り、それを排除しようと集まったリンパ球で肺がいっぱいになって呼吸できなくなったことが原因でした。このリンパ球をいったん肺の外へ出すのは実に簡単で、ステロイドホルモンを使えばいい。すると呼吸ができる。呼吸不全を起こさずに、せめて5日間生きていてくれれば、必ず人の体には抗体ができる。抗体ができれば、ウィルスは一瞬にして中和されます。

ですから、サーズ騒動で新聞社にコメントを求められたとき、日本ではサーズが入ってきても恐れることはない、なぜならば日本の病院にはステロイドホルモンをはじめ、医療設備も整っているからと答えました。幸い日本には入らず、私の仮説は証明されませんでしたが、70名近い米国人の感染者から死者は出ませんでした。

メキシコでは豚インフルエンザウィルスで死者が出ていますが、解剖結果などの報告がされていません。おそらく、肺のどういう病変で死んだのかがわかれば、薬をはじめ、いくつかの治療法をもって対処することができたはずです。

一方、チェルノブイリや東海村の放射線事故では、免疫系が破壊されてしまったから、深刻な事態となりました。心臓や神経はなんともない。放射線に一番弱いのが免疫に深く関与するリンパ球なのです。

我々の体の中は、ばい菌だらけです。それでも生きていられるのは免疫が機能しているから。それがやられちゃったら、すでにあるばい菌がブワーッと増殖してしまって手遅れになる。

免疫がある限り、5日、できれば1週間生きていてさえくれれば必ず抗体ができる。常日頃、「免疫力は生命力」と言っているように、免疫とは、そういう非常にありがたいものなんです。

“うつすのを避ける”ためにマスクはするべきもの。
本当に必要な人に行き渡らないのこそ問題です。

新型インフルエンザ騒動では、マスクが店頭から消える事態が生じました。

奥村 予防という意味では、医学的にはマスクの効果は証明されていません。でも、人混みに出ないようにしようとか、気をつけましょうというシンボルとしては有効です。そうやって、みんなが気をつけるだけでもずいぶん違いますからね。

サーズがあれだけ中国で蔓延したのは、中国語の発音はものすごく唾気が飛ぶことと関係しているとも言われました。唾気を飛ばさないためにマスクが必要なんです。インフルエンザウィルスも飛沫感染ですから、“うつされるのを避ける”というよりは、むしろ“うつすのを避ける”ためにマスクはするべきもの。本当に必要な人に行き渡らないのこそ問題です。

季節性のインフルエンザワクチン接種も、欧米人は他人にうつさないためにしますが、日本人は1万人に1人の副作用を恐れて受けない。ワクチンというのは100%安全とは言い切れないし、実際インフルエンザワクチンで日本脳炎にかかった人たちが訴訟を起こしたことなどを受けて、強制集団接種を止め、任意接種になったという経緯があります。それ以降インフルエンザワクチンの接種率がグンと下がったせいで、猛烈なインフルエンザが流行したときに、高齢者を中心に10万人単位で死者が出ました。それからですね、また接種率が徐々に上がってきたのは。

だいたいインフルエンザと風邪はまったく別の疾患であるという認識に欠けています。英語でも、インフルエンザはflu、風邪はcoldで違うのに、ロシア風邪、スペイン風邪、香港風邪と訳しちゃったのがそもそもの間違い。インフルエンザは、特にお年寄りや乳幼児、呼吸器系などに慢性疾患のある人、免疫力の低下している人などの、いわゆるハイリスク群にとっては死に至ることもある。だからこそ、ワクチンがあるんです。普通の風邪もウィルスですから、ワクチンを作ろうと思えば作れますが、命に関係ないから作るほどでもない。おとなしく寝てればいいんです。

インフルエンザと風邪はここが違う

自律神経のバランス=免疫力。
NK細胞は、精神的ストレスや
日内リズムの乱れに弱い。

免疫力があるとか、免疫力が高いという言い方があります。人によって差が出るのは何故ですか?

奥村 免疫の働きに関与しているのは、血液の中の白血球です。白血球は、ほぼ60%の顆粒球、35%のリンパ球、5%のマクロファージで構成されています。

血液中の免疫に関する成分

免疫と自律神経の深い関係

新潟大の安保先生の研究ですが、顆粒球は、自律神経の中の交感神経の支配下にあり、リンパ球は副交感神経の支配下にあります。緊張すると交感神経が優位になって顆粒球が増え、リラックスすると副交感神経が優位になってリンパ球が増えますが、健康な人のバランスは、ほぼ先に述べた比率になっているもの。

ストレスフルな生活をしていると、このバランスが崩れて病気になります。つまり、この自律神経のバランスのいいことが、免疫力があるということになるわけです。

マクロファージは免疫系で最初の仕事をする司令塔のようなもの。顆粒球は侵入してきた細菌や死んだ細胞を食べて処理し、リンパ球はウィルスや細菌、感染細胞を退治する免疫の主役。リンパ球には、ウィルスなどの抗原に対して抗体をつくるB細胞、抗体をつくるように命じるT細胞、生まれながらにして殺傷力を持つナチュラルキラー(NK)細胞、NK細胞とT細胞の働きを併せ持つ胸腺外分化T(NKT)細胞があります。

NK細胞は、全身をパトロールしてガン細胞を片っ端から叩いてくれるので、NK細胞の活性化はストレス社会を生き抜くためのカギとなっています。

このNK活性は、加齢とともに弱くなるのですが、5人に1人くらいはもともと低い人がいます。精神的なストレスにも弱いし、日内リズムの変動に非常に弱い。


免疫細胞の種類とそれぞれの働き

マクロファージ

食べるように細胞内に取り込み、酵素で殺菌処理するアメーバー状の細胞。(貪食細胞)また、抗原となる異物の情報を提示することで、T細胞やNK細胞を活性化し、攻撃の司令塔としての役割を果たす。

T細胞

3つに機能分化する。
●ヘルパーT細胞:キラーT細胞に攻撃 指令し、B細胞に抗体を作らせる。
●キラーT細胞:ウィルスなどに取り 付いて破壊する。
●サプレッサーT細胞:適時に免疫反応 を終了させる。

B細胞

ヘルパーT細胞の刺激により活性化。その抗原にあった抗体を合成し、標的に向かって発射、殺傷する。抗体ができれば、それ以上ウィルスなどが増殖することはない。また2度目に同じ抗原が侵入した場合に、すばやく攻撃をしかける。(免疫を獲得)

NK細胞

NK(ナチュラルキラー)細胞は、血液中に一定数存在しガン細胞がないかパトロールを行い、発見すると攻撃。ウィルスなども同様に攻撃できる。また、NK細胞とT細胞両方の働きをもつ「NKT細胞」も発見され、免疫療法への活用が期待されている。

免疫の仕組み

例えば夜働いて昼寝るような生活でも、リズムが規則正しければ問題ないのですか?

奥村 日内リズムというのは、昼は交感神経が優位に働くので仕事に向き、夜は副交感神経が優位に働くので休息に向く、そういうサイクルです。ですから、朝8時から夜10時というようなリズムで規則正しく生活するか、あるいは完全に昼夜逆転した生活でも規則正しい生活リズムを守っている分にはいいのです。ただ、例えば、長距離トラックやタクシーの運転手、看護師、飛行機のパイロットなどのように、あるときは徹夜したり、夜勤・昼勤のシフト勤務を繰り返したり、時差などで、生活サイクルがバラバラな方たちは、NK活性が低くなる可能性があります。

NK細胞の活性が低い人は、しょっちゅう風邪を引きがちだし、治るにも時間がかかります。一方、NK活性の強い人は、仮に風邪を引いたとしても、とにかく回復が早い。風邪は免疫力のバロメーターといわれるゆえんです。

それでも、若いうちはまだいい。これが、40、50代にもなって、例えば看護師さんのように夜勤当直したり、昼勤したりで日内リズムをメチャクチャにすると、病気になりやすい。NK細胞というのは、それくらい生活スタイルとか精神的ストレスに影響を受けるものなのです。

β-グルカンと乳酸菌は、
NK活性を上げるプロバイオティクスとして注目。

若くもない、ストレスとも無縁というわけにはいかない人はどうしたらいいでしょう?
きのことヨーグルト

奥村 そうですね。誰でも、生活していれば精神的なストレスと無縁というわけにはいきません。調子のいいときばかりが続くとは限りません。そういうときを狙いすましたように病魔が忍び寄る。

実は、老人病院に協力してもらって、お歳を召した方にβ-グルカンとか乳酸菌を飲んでもらったことがあります。すると、NK活性が上がることがわかりました。

β-グルカンと乳酸菌は、ストレスがかかってもNK活性が下がらないようにしておくことができるプロバイオティクスとして注目されているものです。プロバイオティクスというのは、「腸内微生物のバランスを整えることで、人の体によい影響を及ぼす生きた微生物、及びそれを含む食品」のことです。

β-グルカンは、キノコやパン酵母の細胞壁から抽出された多糖類で、マクロファージを活性化し、マクロファージが活性化されるとNK細胞も活性化されます。マクロファージは死んだ細胞を捕食して消化するゴミ掃除屋みたいな働きをするのですが、このゴミ掃除が下手くそになると、免疫系がうまく機能しないばかりでなく、シミができます。脳にシミができればアルツハイマーになってボケる。

乳酸菌は、腸管周囲を取り巻くリンパ球を直接刺激することができます。ほかの菌も刺激することはできますが、免疫系が崩れたときに元に戻すような刺激をすることができるのは乳酸菌だけです。

食べ物で同じような効果を期待するのは難しいのですが、β-グルカンや乳酸菌のプロバイオティクス効果を研究するヒントになったのが、世界の長寿村で行われている食習慣であったことを考えれば、シイタケをはじめキノコ類をできるだけよく噛んで食べるとか、ヨーグルトを食べるといったことは勧めるに値するといっていいでしょう。

βグルカンと乳酸菌


いい友達を作ってストレス発散。
そしてよく「笑う」ことが、免疫力を高める。

免疫力を高めるとか、NK細胞の活性化をはかるには、日ごろどんなことを心がけていればいいでしょう?

奥村 ストレスは誰にでもあります。ストレスをいつまでも引きずらないで、いかに発散するかが大事。そのためには、いい友達をつくること。一人ぼっちで友人がいない、引きこもってばかりいるというのはダメです。ほんとうにいい友達とかいい恋人と一緒にいたら、辛いこと悲しいことを忘れていられます。

もちろん一人でも発散できるという人は大丈夫ですが、そりゃよほど悟りを開いた人。99%は俗人ですからね。

連れ合いに先立たれると、女の人はたいてい長生きしますが、男はそばに女性がいないと3年以内に後を追うように亡くなるというデータがあります。70歳以上で、息子など男だけに囲まれて生きている人と、奥さんや秘書でもいい、そばに女性がいる人とでは、寿命が違います。未婚、離婚、死別を問わず、独身男性の平均寿命は、妻のいる男性に比べて6〜12年も短いという人口問題研究所の調査結果があるくらいです。古女房でも娘でもいい。女性がいて口うるさく注意されることで、程よい緊張感を保つことができる。過度の緊張も、逆にだらけすぎもよくないのですが、適度な緊張は好ましいものです。

ですから、アメリカの老人ホームで一定水準以上のところでは、夕飯を食べるとき、みんな正装をします。

そうすると、やはり気合が入るんでしょうね。変な恰好でだらけているよりもキチッとしていたほうがいいことは、老人ホームのデータも物語っています。今、日本の老人ホームもレベルの高いところでは、徐々にそうなってきています。家族と面会するときも、きちんとした服を着て迎える。やはり、人の目を気にしたほうがいい、そのためにも男同士だと具合が悪いんです。

もう一つは、よく「笑う」こと。アメリカの「笑い療法学会」をはじめ、日本でも医療における笑いの効用の研究は盛んに行われています。

ゲラゲラ笑うことで、心身がリラックスし、自律神経の働きが安定する、モルヒネ以上の鎮痛作用を持つ神経伝達物質が増えて痛みを忘れる、NK活性がアップする……など。作り笑いでも同じような効果が得られるというのですから、笑いの効果は絶大です。落語や漫才、ジョーク集など、身近に笑える材料を用意して、憂さは笑い飛ばすに限ります。

「笑い」はカラダに何を起こす

免疫の研究は治療の領域に。
ガンの免疫療法にも成果が現れてきています。

私たちの生活と密接なかかわりのある免疫学研究の現在と今後期待される成果は?

奥村 やはりガンは、日本人の死因のトップですし、しかも日々数千個のガン細胞が、私たちの体の中で生まれていることを知れば、穏やかではいられないかもしれません。でも、免疫力が勝っているうちはガンは発症しませんからね。

皆さんが最も関心があるのはガンの免疫療法でしょう。遅々としてではありますが、本物の成果が少しずつ現われてきています。例えば乳ガンや、ある種の白血病が抗体治療で生還する人が増えてきています。また、ガン細胞が増殖するのに必要な栄養源を取り込む血管を作らないようにする免疫療法も開発中です。そうすると、ガンになっても取り除かずに共存していく可能性があります。

NK活性を上げることは、ガンの転移を少なくする上でも有効です。NK活性を上げると、末期ガンの人の予後を非常に長くするということもわかっています。QOL(Quality Of Life)の違いが顕著なのです。

自己免疫疾患のSLE(全身性エリテマトーデス)という免疫病の百貨店みたいなシリアスな病気も、今はステロイドホルモンくらいしか治療法がないのですが、多くの免疫医が新しい治療法にチャレンジしてるところです。

移植の分野では、拒絶反応を起こさないようにするのが免疫学の真骨頂。他人の臓器を自分のもののように騙すことはできないか、その研究も一番ホットなところです。

同じ病気でもこれからは治療法に幅が出て、患者側にも選択肢が増えるということですね?

奥村 今は患者さんがインターネットで情報を得てきますから、自分の治療法は自分で選択する時代です。

アメリカのデータですが、末期の乳ガン患者を集めて2グループに分け、1グループには麻薬で痛みを緩和し、牧師に天国の話をさせて安らかな生活を送らせる。もう一方のグループには、モルヒネも使わず、痛くてもガンを闘え!と頑張らせた。どっちが長生きしたと思います? なんと片や3ヶ月に対して、3年も長生きしたのは頑張らせたほうだった。ガンを意識して、私は治るんだという信念のもとに闘病できる人のほうが予後が長いという統計は、実に興味深いと思いませんか?

奥村康先生の研究室は、NK活性を高める環境そのもの。おしゃれなファッションに身を包んだ若い秘書たちが、資料を揃え、にっこりと微笑む。同姓でも思わず見惚れてしまうほど、白衣と事務机の殺風景な研究室にあっては、まさに大輪の花。

奥村先生の、エネルギッシュでハリのある肌ツヤ、闊達な話しぶりの秘密を垣間見た思いがしたものです。免疫の達人の話術に引き込まれ、「ふむふむ、へぇー」と驚かされる免疫講座となりました。

●「」の付いた図は、奥村康先生『3日でわかる免疫』(ダイヤモンド社)より引用

パトス別冊2009 6月

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